現在、東京都内の認可保育所では、保育士が0〜2歳児の午睡(お昼寝)の確認をしており、5分おきに午睡確認表に寝ている向きや顔色等を記録している。 午睡時間は13〜15時の約2時間だが、0〜2歳児の各保育室には一般的には少なくとも2名の保育士が担当しているため6名の保育士が午睡の記録に延べ12時間を要している。
◆センサーで「午睡姿勢」「呼吸状況」を自動記録~保育士の精神的負担を軽減
 毎日約12時間、月間では約312時間(26日間)にもなり、午睡確認に要する人件費は少なく見積もっても30万円(年間360万円)を超える。 全国の保育所は4万 超えるため、実に年間1,440億円が発生していることになる。 また、記録方法は保育士による目視確認であり、一見するとわかりにくい特に乳児の午睡中の呼吸の状況などを確認している保育士の精神的な負担は小さくない。 そこで、一部の自治体は、この午睡確認にセンサーを活用することで、保育士の負担を小さくしようと昨年から事故防止を目的として補助金を投入した。 午睡センサーの相場は一個3万円程度と保育所にとって安くはない。 たとえば、センサーを装着する0〜2歳児の子どもは一つの園(60〜70名定員を想定)につき30人程度が通っているためセンサーの購入金額は90万円となる。 さらにセンサーが感知した情報を中継するサーバー設置代金や、午睡状況を入力したり表示したりするタブレット代金なども含めると100万円を超える。
 こうした背景から補助額は一つの園につき100万円を上限とする場合が多く、一部の保育所は、この補助金を活用することで午睡センサーを購入することができるようになった。 午睡センサーの効果は当初の事故防止を到底していた以上に大きい。 午睡中の子どものオムツに午睡センサーを装着することで、「子どもの午睡中の姿勢」、「呼吸の状況」などを自動的に記録することができ、保育士の目視確認と合わせて二重に確認することができるようになった。
◆子どもの健康予測も可能に~残業時間の大幅削減に直結
 これにより保育士の精神的な負担の軽減は当然ながら、従来の午睡記録表に記入する時間を、保護者へ向けた連絡帳の記入や保育日誌や保育計画などを書く時間に充当することが可能になった。 これまでは、保育日誌や連絡帳や保育計画は他の時間帯に書いていたため、こうしたテクノロジーを活用した効率的な時間の活用は、残業時間などの大幅な削減に直結した。 自治体から100万円の補助金を投入することで、保育士労務軽減に繋がり、保育所は年間360万円の午睡確認の人件費の中で、他の記録業務の記入時間を捻出することが可能になった。 また、仮に4万ヶ所の保育所に100万円の午睡センサー補助金を投入すると、400億円であるため、理論的には年間1,000億円以上の便益が期待できる。
 さらに、午睡センサーの中には「午睡中の温度」も感知できるものもあり、子どもの健康予測が可能になった。 たとえば、午睡中の温度の推移を計測すると、健康な子どもの午睡中の温度は右肩上がりに上昇するのに対し、健康状態が不安定な子どもの場合は午睡直後に温度が上昇する。 後者の場合の子どもは、翌日は発熱する傾向にあり、保育所へ登園することができず、保護者も急な予定の変更を余儀なくされてしまう。 しかし、午睡センサーを活用することで、保育所から保護者へ明日の健康状態に対する適切なアドバイスができるようになった。 このように、午睡センサーの効果は、保育士の負担の軽減のみならず、保育士の負担軽減と360万円の労務費の合理化、国全体として1,000億円の便益、さらには保護者への適切な助言などにも繋がるなど、その可能性を広げている。
◆午睡センサーの効果見込み、東京23区で11自治体が補助金支給制度を導入
 一方、このような効果が見込めつつある中で、まだ補助金を導入していない自治体も数多くあるのも事実であり、その管轄下の保育所は午睡センサーを活用することができていない状況である。
たとえば、東京23区では、補助金を支給している自治体は11区のみである。 ※世田谷区、杉並区、品川区、北区、中野区、文京区、荒川区、台東区、中央区、渋谷区、葛飾区 10区は、2020年8月時点において実施していない。 ※練馬区、大田区、新宿区、目黒区、墨田区、港区、千代田区、江東区、板橋区、江戸川区 そして、足立区、豊島区の両区は未確定の状態である。
 こうした明らかな効果を期待できる保育政策は、早急に実施されることを願う。
(代表取締役社長兼CEO 貞松成)