少人数のメリットを生かし、異年齢保育で思いやりや自信を培う保育を

千葉県市川市にある「AIAI(あい・あい保育園)北国分園」は、北総鉄道北総線「北国分」駅から徒歩4分ほどにある30名定員と小人数のアットホームな園です。現在、0~4歳が各5名、5歳3名が在籍していて、年齢の垣根を超えた異年齢保育を取り入れることで、子どもたちは共に学び成長し合っています。田中知恵施設長にお話しをお聞きしました。

住宅街の中に建つAIAI北国分園。大型遊具AINIが目印

園全体で共通理解。ちょっとした大家族のような園

——少人数の良さはどんなところですか?
田中:まず、何といっても家庭的な所。まさにAIAIが掲げる“もう一つの家”を体現しています。いつも「ちょっとした大家族」のようだと感じます。

それと、全職員が共通理解で取組んでいる点。担任は決まっていますが先生がたは子どもたち全員をよく知っていて、子どもたちも先生全員を知っています。困ったことがあってもすぐに相談し合える所もいいですね。保護者様からは「このぐらいの規模感の方が一人ひとりに目が届くようで安心」というご意見を頂きます。

——子どもたちは、異年齢の子とどのように接していますか?
田中:合同の時は、まるで兄弟のように過ごしています。特に教えていないのですが、子どもたちは新入園児の名前をすぐ覚えます。先日も、3歳児の女の子が迎えに来たお母様に「今日ね、つくし組に新しく来た〇〇ちゃんと手をつないであげたんだよ」と話していました。

——自然と下の子を思いやる心が育っているのでしょうか?

田中:はい。異年齢保育では、年下を労わったりお世話することで、思いやりが芽生えたり忍耐力がつくと言われていますが、当園でもそういったシーンを見ることは多く、子どもたちの成長を感じて嬉しくなります。

——一般論ですが、小学校入学時に大きな集団に馴染めないのでは?との声がありますね
田中:当園でも4,5歳児の社会性の育ちは課題にしています。大人数の中で場慣れや人慣れをさせたいと思う方もいるでしょうが、大きいところに踏み出すためには、慣れることより、新しい環境でも委縮せず挑戦できる気持ち、自己肯定感を育てる事が大切です。そういった点では、先生たちが一人ひとり丁寧に関わることのできるこの環境は、最適だと言えるのではないでしょうか。

やさしい笑顔が印象的な田中施設長

異年齢保育や日々の活動で“気持ち”が育つ環境づくり

——施設長として、どんな園にしていきたいですか?

田中:施設長の経験値はまだまだですが、逆に古い価値観にとらわれない柔軟さが強みです。職員の意見も広く聞き、変えた方が良い事はすぐに変えています。本当に必要な事を見極め、より良い園にしていきたいです。

——異年齢保育で注意している事は?

田中:大きい子たちに「お兄さん、お姉さんだから」や「大きいんだから」と言わないようにしています。でも、子どもたちは自然と小さい子を守るし、対等に遊ぶ時もあります。接していく中で相手を尊重し、労わる気持ちが生まれるのだと思います。

——「もう大きいんだから」と決めつけないほうがいいのですね

田中:小さい時は、発達の個人差が大きいですし、大人の価値観を押し付ける事になりますから。先日も、入所当時いつも泣いて抱っこされていた子が、いつの間にか小さい子を気遣ったりしていて、その成長ぶりに感激しました。早生まれのお子さんなので同年齢のみの環境だったら、保育者もずっと年下扱いしていたかも知れません。環境によって“気持ち”が育つのだと思った出来事です。

——保育の様子について教えてください。

田中:庭には大型遊具のAINIがあるし、周辺には公園がたくさんあってお散歩によく行くので運動や探索の環境は充実しています。学びの面でも、IQパズル(*1)や英語教室を取り入れています。園の特長を一言でいうと“ゆったり”でしょうか。たとえばIQパズルも、小人数のため時間をかけて考えるのを待っていてあげられます。 

——AINIは立派ですね。私も目印にしたので迷わずにすみました。

田中:AINIは、子どもたちが大好きな遊具。今年度、待機していた4歳のお子さんが入園されたのですが「アイニーの前を通るたびに、遊びたい!とずっと憧れていたんです」と保護者の方から言われました。

暑くても外で遊べるような工夫も。写真は熱中症対策としてAINIに取り付けたミストが出るロープ

どろんこや雨降り散歩など五感を使う遊びで「お散歩靴」が大活躍!

——公園へのお散歩は毎日行くのですか?
田中:ほぼ毎日です。戸外活動は、保育のねらいがたくさん詰まっているので大切にしています。今年度は「お散歩靴」を作りました。実は、これ「避難靴」を応用したものです。

——避難靴というと、緊急時に急ぎ裸足で避難して、避難先で履くための靴ですね

田中:そうです。実は避難訓練で避難靴を履く練習をしたら、小さい子どもたちが自分の靴だと思わず、履きたがらないという事がありました。それに、使わないままサイズが変わってしまうのがもったいなくて、避難靴をお散歩用に使うことになりました。

——一石二鳥のアイディアですね

田中:避難時もすんなり履くようになったし、保護者様にも「朝、来る時、どんな靴でもいいので助かります」と好評です。それまでは「新しいサンダルを買ったらサンダルで行きたがって…」とか「長靴がいいって聞かなくて」などの声を聞いていましたから。

それに、保護者の方は汚れてもいいからいっぱい遊んでほしいと思ってはいても、いざ「水たまりにはまってしまって」と、濡れた靴を見せると「えっ!」となるものです(笑)。今では帰り道の事を気にせずに、外遊びをフルに楽しめています。

ずらりと並んだお散歩靴。緊急時には大きな袋にほうりこんで避難靴として使います

——他に北国分園ならではの活動はありますか?
田中:職員からの発案で「雨降りお散歩」を実施しています。幸い、あまり歩かなくてもいいところに公園があるので、そこまでレインコートを着て行きます。雨の日の公園は、普段とは違う景色、音、ニオイなど、子どもたちにとってはちょっとした冒険。そこを感じてもらうのがねらいです。

カッパを着て公園散策。水たまりでバシャバシャしたり、葉っぱを浮かべたり!

——保護者様とのコミュニケーションはどのように?
田中:日々の保育を伝えるため、毎日、玄関に活動の報告を掲示しています。口頭で「どろんこになって遊びました」の説明に加えて、キラキラした目で楽しそうに遊んでいる写真と一緒に「五感を使って遊びました」と教育的なねらいも添えることで、保護者様にも「そうか、ただ汚しているわけじゃないんだ」と理解していただけますし、保育者の学びにも繋がっています。

——栄養士さんからの活動記録もありましたね

田中:はい。栄養士の2人も食育に強い思いがあって、いろいろ考えてくれます。で、保護者様にもきちんと伝えたいと、活動記録を作ってくれました

(キャプション)毎日の活動報告と栄養士さんの活動報告

——昨年はコロナ禍で食育活動もあまり出来なかったのでは?

田中:さすがにクッキングは難しかったです。栄養士からのアイディアで「玉ねぎを炒めて、ニオイとか音を感じてもらうのはどうだろう」というのをやりました。できないから、やらないではなく、出来ることを模索して、少しでも子どもたちに体験をさせてあげたいと思います。

——みなさんアイディアをいろいろ出し合って…

田中:職員は、それぞれ自分で探したり、園内に置いてある本から調べたりしています。実は、私も「この本いいな」と思ったものを本棚コーナーに置いています。先生がたは、それを参考にして「こんな活動してみたいのですが、どうでしょう?」と、相談してくれます。昼礼や定例会議、ビデオカンファレンスなど、たくさん話す時間を作るようにしています。

——最後に地域との関わりを教えてください

田中:昨年はコロナで地域活動はあまりできませんでしたが、開園時から、近所の商業施設様とは親しくさせてもらっています。コロナ前はハロウィンの際に訪問させて頂いたり、アクティブラーニングでお買い物に行ったりしていました。また、登降園時に駐車場を使わせて頂いています。一時停車で子ども達が事故にあったら大変!と快く貸して下さっています。散歩していたら、農家の方がじゃがいもをくれたことも。これからも地域に愛される“大家族”として温かな園を運営していきたいです。

(*1) IQパズル:学力の土台を向上させるため、数、図形、思考力の3つの分野についてゲーム感覚で育成する幼児用プログラム。

AIAI(あい・あい保育園)では、「もうひとつの家」をコンセプトに、首都圏や大阪で79の認可保育園(2021年6月現在)を展開しています。それぞれの園が地域に根差し、さまざまな取り組みをしています。そんなAIAI各園の様子を順番に紹介しています。