2019年4月に千葉県八千代市に開園した「AIAI(あい・あい保育園)大和田園」は、京成大和田駅より徒歩3分の距離です。大和田園では特化型学習プログラム「IQパズル」(*1)と身体遊びに力を入れており、取り組む中で子どもたちに変化を感じ始めているとか。取材の日は、ちょうど4月のお誕生会が行われていて、見学の後に笹森施設長と片岡先生にお話をお聞きしました。

数の量感を養うIQパズルで、変わってきたこと

——お誕生会を見学させてもらいました。子どもたちが、きちんと座って先生のお話しを聞いていて感心しました

笹森:新しく入園されたお子様も環境に慣れてきてほっとしています。大和田園の正社員は平均年齢25.5歳と保育者としての経験値はまだ浅いですが、丁寧に子どもたちと向き合うことを大切にしてくれているので信頼関係が築かれているのを感じています。

お誕生会には着ぐるみびーぼもお祝いにかけつけました

——まずは信頼関係なのですね

笹森:新しい環境の中で見る物、聞く事のほとんどが初めての毎日に、最初は落ち着かなくて当然と思っています。静かにさせよう、集中させよう、と保育者側の目線に子どもをコントロールするのではなくて、何をどうしたら団体行動がとれるのか、協調性を持ち他者を思いやる気持ちは何から育まれるかを先生達に考えてもらっています。日々の生活の中で子どもたちとの信頼関係を築いて、ここは安心して過ごせる場所、みんなで過ごす場所『もう一つの家なんだ』だから周りと力を合わせて生活していくんだ。という気持ちが芽生えていく事で徐々に協調性が育ち、誰かの為に力を発揮できる子に育っていきます。それには保育者と子どもとの信頼関係が全てのベースになっていると思っています。

——団体行動の時の大和田園ならではのルールなどはありますか?
笹森:ルールというか、導入している事があります。幼児クラスでは「3秒静止」というのがあります。何かを始める時に「気をつけピッ!1・2・3。はい、始めます」という声掛けをするのですが、何かに集中して取り組む前に相手の目をみてあいさつし、気持ちを統一するために動きを何秒か止める事です。頭を切り替えて集中する意味もあり、AIAI PLUS(あい・あいプラス)八千代緑が丘に見学にうかがった際に、療育で行われているのを見て当園にも取り入れてみよう!と導入しました。

正直、現代の子どもは入園してくると椅子に座れない、相手が話す間じっと待っていられない、食事中も立ち歩くというお子様がすごく多く、幼児でもまず座ることから教えていくケースもあります。これを導入する事で、自分を自分で律する習慣が自然につき、何秒かでもじっと待ち集団と行動を合わせる協調性がついてきたと思います。そして子どもたちの姿勢が自然と伸び “やる気モード”に入るのも感じます。

——なるほど。大和田園ではIQパズル(*1)に力を入れていると聞きました。講師は笹森施設長が務めているとか

笹森: はい。きっかけは、開園当時にIQパズルの経験者がいなかった事です。「それなら私が覚えて、園内研修をしよう」と当時の講師の先生に教わりました。方法を学び、自分がまずはやってみて気づいたことや困ったことを対策したことを園内研修で伝え皆が出来る様になりました。

今でも新年度に入るとしばらくは私が講師をしています。6月ぐらいにスタートして、2カ月位は全クラス私が講師を務めクラスの級がふさわしいか判断したり、その年その年の子ども達の状況を掴みます。その後、担任の先生に託して私はフォローに回ります。その後は、担任とパート職員で行っていくというように段階を追って取り組む事で、職員全員がIQパズルを教えられるようにしました。

学習室でのIQパズルをする様子。始める前には「気を付け!ピッ!」

——IQパズルの講師で難しい点は?

笹森:声かけですね。子どもの考える力を伸ばすにはどうしたらいいかと良く悩みます。そのためにはどんな声掛けがいいのかなと…。IQパズルは就学前の能動的な学習であり、受動的ではありません。私は小学校教諭の免許をもっており、小学校教育要領を学んだことがありますが、小学校の教育は受動的教育で、先生が主体です。算数では数詞、計算、数量…。知識を身につけ、答えを求める方法になっていきます。

IQパズルは算数とは違い、大事にしているのは量感です。たとえば、物を容器に入れる時、どれぐらいの大きさなら入るかとか、どっちが多い、3ってどのくらいの量?といった様に数の量感を養うのを大切にしています。子どもが主体となり、答えに辿り着くまでのプロセスを大切に育むことが重要になってくるのです。だからどんな答えも正解。子どもたちの良いところを見つけて声かけをする中で、達成感や自信をつけてもらい「またやりたい!諦めないですればできる!!」と思ってもらう声掛けは何かを日々模索しています。

——上手な声かけとは?
笹森:たとえば、線と線をつなげるとします。上手につなぐ子もいれば、全然、違うところにいってしまう子もいます。そういう時も丁寧に描けたね」や時には、えんぴつが上手に握れたこと自体を褒めることもあります。何か必ず一つでも子どもの頑張ったところを伝えていくように心がけています。

——IQパズルを学ぶことで子どもたちに変化はありましたか?
笹森:実は子どもたちが遊んでいる時、IQパズルのおかげかな?と思うシーンをたびたび目にするようになりました。

先日も床に散らばった井型ブロックを片付けるシーンで『このおもちゃ、どっちの箱なら入るかな?』と子ども達に聞いたんです。すると大きさの違うケースを持って来て、床に散らばったブロックとケースを見比べてしばらくすると「絶対、こっち!」と子どもたちは言いました。その通り入れてみるとすれすれの高さで見事に収まったんです。

——さきほどの量感ですね

笹森:子どもたちの成長を感じたことで、よりIQパズルに力を入れるようになりました。ぶつかりそうになったお友達同士が寸前で止まることもよくみかけるのですが「あー、この子は向こうからくる友達と、向かっていく自分との距離感が体感出来ているんだな」と感じます。すべてがIQパズルによるものとは言い切れませんが、成長のスパイスになっている事は確実に感じます。今後も子どもたちの成長の糧になってくれたら嬉しいです。

保護者の不満を課題にすることで、ピンチをチャンスに!

——職員の育成やコミュニケーションはどのようにしていますか?

片岡:うちの園は職員同士と施設長がすごく頻繁にコミュニケーションをとっているなと感じます。そのコミュニケーションの積み重ねがあるので、何かの時は一丸となっている感じがありますね。私は一時的な形で当園に在籍するはずでしたが「そのまま残りたい」と申し出ました。今、主任を目指していますが、笹森施設長も応援してくれるし、ここで主任になり、園のために働きたいと思います。

——開園時、前任の施設長が急に退職することになって、不満や不安を持たれる保護者の方も少なくなかったとか。

片岡:はい。でも、笹森施設長が奔走してくれたおかげで、徐々に信頼関係を築けたと思います。

笹森:私の方こそ、くじけそうになるたび職員に励まされました。当時は、とにかく保護者と園、保護者と会社の信頼回復の為にどうしたらいいか、ただひたすら未来を信じて乗り越えていました。まずは、基本に返って保護者の声を真摯に聞き、一つ一つ丁寧な態度と説明で解決していきました。

その次に大和田園は安全で、安心できる園だと保護者の方に思って頂けるよう、実績作りに力を注ぎました。園内研修でマニュアルにのっとった保育運営の仕方を身につけていき、ヒヤリハットの時点で防止するスキルを身に付ける研修をしたり、皆で保育環境を整えていくんだという共通理念を持てるようにする中で、今日まで事故ゼロを維持しています。今年度の課題としてインスペクトA(*2)にむかって職員一丸となって取り組んでいます。

——他に取り組まれたことはありますか?

笹森:開園時は屋上園庭で、AINIが無い事への不満があったため、AINIが無くても運動不足にならないという立証に基づいた説明ができるようにしました。そのひとつが、園周辺の散歩先の環境の特徴を列挙して、何となく時間が空いたから戸外に行くではなく、何を体験したいからここに行く、どんな動きが不足しているからあそこに行って、〇〇をしようという様に目的をしっかりもって戸外に行くようにしました。

室内遊びも、上肢と下肢を器用に動かす身体運動として毎日雑巾がけを取り入れてみたり、大きなネットを購入し、這う、くぐるといった運動を、ネットくぐりで経験できるようにしました。

——ありとあらゆる運動を保育に取り入れたのですね

片岡:屋上ではカートとかフラフープなどもやれますが、一つだけ、お砂場遊びができません。幸い、身近な公園が11カ所もあるためお砂場遊びに行く日はシャベルじゃなくスコップを持参していくほど気合が入っています!

プラスαの心づかいから絆が生まれる

——地域との交流はいかがですか?

笹森:昨年はコロナ禍で地域との交流が難しかったのですが、当園のビルの1階にあるデイケア施設と交流することができ、敬老の日には絵を届けたり、七夕の笹や願い事を書く短冊をプレゼントしたりしました。

日頃から園児たちには、近所の人へのあいさつはきちんとしようねと言っています。

鼻歌を歌う声を聞きつけお家から手を振ってくれたり、畑の持ち主の方からは育てている野菜を見せて頂いたり、時には作物をおすそ分けして下さったり…。「かわいい園児がいるなあ」と、地域の方が声をかけてくれるようになりました。

——知らない間に地域に根差していたのですね

片岡:どの出来事も、希望してお願いしたものではありません。周囲の人たちへの子どもたちのあいさつや、ちょっとしたコミュニケーションから地域との絆が生まれたのだと感じています。

 七夕集会の様子

廊下が、まるで天の川に!伝統行事も楽しく教えます

——温かな園という事を発信できているのですね

笹森:周囲の大人から愛されているということは、子どもたちにとってとても貴重な体験となります。七夕行事では本物の竹を使用した事があるのですが、実はこの竹も知り合いの竹林に招待頂いて、職員と施設長で竹取りをして用意した物です。つくづく当園は周囲のご協力と愛情に支えられているなと思っています。いつかコロナ禍が落ち着いたら、地域の人もお誘いして屋上で夕涼み会をしたいです。

(*1)特化型学習プログラム「IQパズル」:学力の土台を向上させるため、数図形、思考力の3つの分野についてゲーム感覚で育成する幼児用プログラム。
(*2)インスペクト:行政監査や第三者評価とは別に、社内独自の「インスペクト」と呼ばれる監査制度を全施設に対し実施しています。「環境」「書類」「運営」の3つの視点から合計240を超える監査項目に対して行い、点数に応じてS,A,B~Fの評価をします。本制度はより良い施設環境構築のための定量的な指標となっています。

AIAI(あい・あい保育園)では、「もうひとつの家」をコンセプトに、首都圏や大阪で79の認可保育園(2021年6月現在)を展開しています。それぞれの園が地域に根差し、さまざまな取り組みをしています。そんなAIAI各園の様子を順番に紹介しています。