出所:厚生労働省 人材開発統括官付若年者・キャリア形成支援担当参事官室(2017)
「新規学卒就職者の離職状況(平成 26 年3月卒業者の状況)」
(https://www.mhlw.go.jp/content/11652000/000370082.pdf)
図は、厚生労働省が公表した「新規大卒就職者の事業所規模別就職後3年以内の離職率」です。全体の離職率は31.8%ですが、その内訳をみると、就職先の規模が大きければ大きいほど離職率が低下しています。1,000 人以上の組織では 24.2%に対し、5人未満の組織では 57.0%と、2.3 倍も差があり、1,000 人以上と5~29 人の組織とを比較しても2倍の差があります。
大企業と中小企業の違いは資本や売上など様々ですが、それらに比例して組織に属する人数も増加します。大企業のように人の数が多くなれば、一つ一つの業務は仕組み化されます。業務が仕組み化されると効率性が高まり、業務は安定し、生産性は下がるかもしれませんが利益は安定します。利益が安定すると福利厚生も充実します。その充実した組織の中では、多くの先輩社員たちの前例に沿ってキャリアプランが描き易くなります。多くの就職希望者はこのような前例に沿ったわかりやすい安定を求めているので、大企業への就職を目指すのでしょう。しかし、業務が安定すると仕事そのものは陳腐化します。また、人が多ければ社内での競争も激しくなり、入社して数年間、場合によっては数十年の間は自分の裁量権はほとんどありません。一日の中で関わる人数も必然的に増えるため調整も必須となり、それに伴い忍耐力も求められます。業種によっては支店も多くなり転勤などにより環境そのものへの適応力も求められます。
一方で、中小企業の場合は、概ね大企業の逆の現象が想定されます。つまり、業務が効率化されていないため、常に臨機応変にクリエイティブな仕事を求められ、少ないリソースで多くの成果を生み出す高い生産性を発揮しなければなりません。人数が少ないために代替要員が用意できず、様々な場面において安定しにくい。
利益が安定していないため、安定的な利益を原資とした福利厚生も十分には整えることができません。前例も少ない中では将来のキャリアプランも描きにくいでしょう。しかし、人数が少ない分、入社早々に相応の裁量権を与えられ、幅広い仕事を任せられるため、高い成長を実感する場面も多いでしょう。同時に、支店も少ないため転勤や異動もなく、毎日顔を合わせる気心が知れた数名の上司や同僚と良好な人間関係を築きやすいかもしれない。
以上のように、どちらにも良い面と悪い面があり、個々人によっても適正は異なるため、一概に結論は出せませんが、結果として新卒者の離職率は大企業の方が低いという結果です。
社会福祉業界はどうでしょうか。介護業界には規模が大きく、売上が1,000億円を超える企業も数社存在することから、教育体制や業務の効率化を図り、今後も安定化してゆくでしょう。ちなみに 1,000 億円を超えている介護の企業は全て株式会社です。一方、保育業界にはそのような大企業はほとんど存在しないどころか、業界のトップ 10 社を全て合算してようやく 1,000 億円を超える程度です。
今後の離職率を語るうえで、保育業界の規模の格差から生じる体制の違いは課題となってゆくでしょう。