出所:厚生労働省(2018)「保育所等における保育の質の確保・向上に関する基礎資料」 p.10
(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11921000-Kodomokateikyoku-Soumuka/0000207475.pdf)
幼児期への教育投資の重要性は様々なところで指摘されており、政府、自治体、事業者は、共に協力して保育の質の向上により一層取り組まなければなりません。
保育の質は一元的に定義することはできませんが、OECDは「子どもたちが心身ともに満たされ、 豊かに生きていくことを支える環境や経験のすべて」と定義しています。保育所保育指針においても、保育とは養護と教育を一体的に展開するものであり、環境を通して行うものとしていますが、厚生労働省は、保育の質について、改めて主に「内容」・「環境」・「人材」の3つの観点があるとしています保育所保育指針においても、保育とは養護と教育を一体的に展開するものであり、環境を通して行うものとしています。
その中の1つである「環境」について、人員配置や面積等、入所者が安全・快適に生活できる広さ・構造・設備を確保しているかといった設備運営に係る最低基準の制定に着目しています。これは認可設置基準でも定められていますので、日本国内の認可保育所のハード面においては問題なく満たしていると言えるでしょう。同時に、アレルギーや死亡等の重大な事故が発生しないよう、事故再発防止のための検証や研修等に努めることで事故のないソフト面の充実を通して質を高めようとしています[1]。
こうしたハード面とソフト面に注目する一方で、これからの保育園は就学支援の役割も強く求められるため、小学校就学に向けた環境構成もまた重要になっていくでしょう。保育所保育指針においても、卒園を迎える年度の子どもが小学校就学に向けて自信や期待を高めて不安を感じないような取り組みや、保育所での成長が小学校での学びや生活へとつながっていくような取り組みの重要性が示されています。
保育園が、子どもたちが小学校就学に向けて自信と期待を持つための取り組みを行うために取り組むべき活動とは何でしょうか。それは、保育園内に小学校の教室に準じた教室を設置することではないかと考えます。小学校には、音楽室や体育館や家庭科室や理科室等、保育園にはない環境がたくさんあり、どんな子どもでも少なからず戸惑うでしょう。主に子どもたちが過ごす環境は一人に一つの机が整然と並んで用意された教室です。この環境で子どもたちは授業と活動に取り組むのですから、同じような環境を保育所に用意することがもっとも望ましいです。しかし、特に都心部においては、待機児童受け入れのために平米数はギリギリの状態で設定されていますから、既存の保育園が小学校就学を翌年に控えた5歳児のために園内に新たに教室を設置するには定員数を減らさなければなりません。定員を減らしてしまうと、待機児童が増えてしまうこともさることながら、特に家賃設定等の事業計画が崩れてしまい、保育園経営そのものが傾いてしまいかねません。したがって、既存の保育園には、教室の設置という環境構成を求めることは難しいでしょう。
しかし、新設の保育園であれば、最初から教室1部屋分のコストを事業計画に織り込んでおくことで、無理なく就学支援に取り組みことができます。今後も、都心部を中心に保育園はますます設置されることが予想できます。新設保育園を計画する際には、従来の0〜5歳児の6部屋に加えて就学支援のための教室を設置するために、自治体も事業者も就学支援のための予算を確保するなどして取り組むべきであると考えます。
[1] ハード面とは、構造物や機械、設備などの物理的なモノを指し、ソフト面とは、社内ルールや意識啓発、研修などを指します。